地熱情報研究所

地熱情報研究所の立ち上げにあたって
地熱から少し離れて
最近の日本の地震活動 最近の日本の火山活動

Q&A

地熱エネルギー理解のスタート  Q&A20

-よくある「地熱エネルギーの疑問」に答え、誤解を解き、短時間でその良さを知ってもらいます-

Q1
地熱エネルギーとは何ですか?
A1
地球内部の熱のうち、浅部(ふつう、地表から数km以内)に存在し、人間が利用できる 熱エネルギーを地熱エネルギーと呼びます。この地球浅部の熱エネルギーだけでも、利用 し尽くせないほどの極めて膨大な量があります。地球は巨大な熱の塊です。地球の中心(深 さ6370km)では約6000℃と推定されており、太陽の表面温度とほぼ同じです。また地球 の体積の99%は1000℃以上で、100℃以下の部分はわずか0.1%以下です。地球の内部が 高温で、地球の表面は約15℃程度の低温ですので、地球内部からは常に自然に熱が流れ出 しています。しかし、その割合で熱が流れ出しても、地球が冷えるまでには数10億年かか ります。したがって、地球内部には無尽蔵とも言える熱エネルギーが蓄えられていること がわかります。
Q2
地球内部の膨大な熱エネルギーを全部利用することができるのですか?
A2
現在の地球の熱利用技術では、上述のような高温の熱をそのままでは利用できません。降っ た雨が地下深部(地下数km深程度)に浸透し、地球内部にある高温の岩石で温められ、軽 くなって上昇し(温められた水を熱水と言います)、比較的浅部(深さ1~3km程度)に溜ま ったところ(地熱貯留層と呼びます)から蒸気・熱水をボーリングによって取り出すことに よって、利用しています。なお、この熱水が自然に地表にまで出てきているのが温泉です。 火山の近くでは、普通のところに比べ、浅いところで高温になっています。火山の深部(地 下数~10数km程度)には、高温のマグマ(溶けた岩石)が存在するからです。したがって、 マグマより浅い部分に地熱貯留層ができることになります。なおマグマが溶けていなくても、 今も高温であれば(たとえば300℃以上)、比較的浅部に地熱貯留層を作ることが可能です。 図1には、マグマ溜りに温められた地熱貯留層(天然のボイラー)に掘削された生産井(せい さんせい)・還元井(かんげんせい)および地上の地熱発電設備が示されています。なお、将 来的には、雨水が浸透しない地下深部、あるいはマグマまでボーリンク坑を掘削し、地上か ら水を人工的に注入し、熱を取り出すことも考えられています。また、水を使わなくても、 地上と深部との大きな温度差を利用して、直接熱を取り出すことも考えられています。

図1 マグマだまりに温められた地熱貯留層とそこに掘削された生産井および還元井、さらには地上の主な地熱発電設備(セパレータ、タービン、発電機、コンデンサー(凝縮器)、冷却塔(日本地熱開発企業協議会、2011)。
Q3
地熱エネルギーを取り出しても枯渇することはないのですか?
A3
地球内部の熱は無尽蔵にありますが、地上でその熱を利用するためには、その熱を運ぶ水の 循環が必要です。ですから、地下で循環する水が運ぶことのできる熱エネルギーよりも過大な熱利用を行うと短期間で枯渇してしまうことになります。そこで、安定して熱を取り出すためには、どの程度の熱を利用できるかをあらかじめ調べておいて、適切な規模の地熱エネルギーを利用することになります。地熱エネルギーに関する科学と技術の進歩は、そのような長期間にわたる安定な利用(持続可能な利用と言います)を可能にしています。そのような結果、地熱発電所は長期間の運転が可能なのです。わが国で最初に建設された岩手県松川地熱発電所は1966年以来すでに46年間にわたり安定な発電を続けており、現在、枯渇の兆候はなく、今後も長期間安定して地熱発電が継続できると考えられています。
Q4
地下にある地熱エネルギーをどのように探すのですか?
A4
地下深部になればなるほど、温度は高くなるのですが、比較的浅部で高温資源が得られる 火山地域周辺の地下浅部(1~3km深程度)にある地熱貯留層を探します。地熱発電を目指 すためには、地下おける温度が150~350℃程度の領域で、そこに熱水や蒸気が存在するこ とが必要です。まず、地上から各種の調査を行います。地質学的調査、地球化学的調査、 そして地球物理学的調査があります。地質学的調査では、地層の重なり具合、断層の存在、 熱水により変質した地層を調べます。また、過去の火山活動の年代も調べます。地球化学 的調査では、温泉水や噴気の分析により、水の起源や地下における温度、起源の異なる水 の混合具合などを調べます。地球物理学的調査では、地下に電気を流したり、地震波を観 測したりして、地下深部の構造を明らかにします。そして、それらの結果を検証し、さら に調査を進めるためにボーリング調査を行い、地下構造を詳しく調べるとともに、温度や 圧力も測定します。その後、これらの各種の調査を総合し、地下における熱と水の流れに 関するイメージ(概念モデルと言います。図1では一般的な概念モデルを示しています。 実際には、地域ごとに、調査に基づいて、個別的・具体的な概念モデルが作られます)を 作ります。さらに、このようなイメージを確かなものにするために、概念モデルを元に、 コンピュータを使って数値モデルを作ります。この数値モデルでは観測された温度や圧力 に基づいて、対象地域全体の地下における熱と水の流れをできるだけ正確に再現します。
Q5
資源量(発電規模)の評価はどのように行うのですか?
A5
地下の熱と水の流れに関する数値モデルに基づいて、どの程度の規模の地熱発電が可能かを 調べることができます。数値モデルを使って、地下のどの深さにボーリングを掘るとどれだ け蒸気を生産することができるかが計算できます。また、蒸気を生産したときに、地下がど のように変化するかも計算できます。そして、生産される蒸気量がわかれば、どの程度発電 できるかが計算されます。さらに、発電に不用な熱水を地下に還元すると地下の圧力や温度 がどのように変化するかも計算できます。その結果、どの程度の生産井を掘り、どの程度の 還元井を掘るかによって、どの程度の発電規模であれば長期間安定して発電ができるかがわ かります。地熱発電所建設予定の個々の地熱地域ではこのように資源量評価を行いますが、 日本全体の地熱資源量を評価するようなときには別の方法(容積法と言います)を用います。 容積法では、測定値に基づいた地下の温度分布、比熱などの岩石物性値を使って、ある領域 に存在している熱量をまず評価します。そして、そこにある熱を、循環する雨水で取り出し た場合、どの程度の発電量が得られるかを計算します。このとき、どのような発電方式を選 ぶか、あるいは何年くらいで熱を取り出すかなどを設定して計算します。計算では多くの場 合、30年間程度で熱を取り出すとして発電規模を決めますが、実際に熱がなくなってしまう ことはなく、自然に補給されるため、発電は半永久的に行われます。
Q6
日本には地熱資源量はどのくらいあるのですか?
A6
容積法をわが国全体に適用した結果、わが国の150℃以上の地熱資源から発電される量が 2347万kWと推定されています(村岡ほか、2008)。この量は、アメリカ、インドネシアに次いで世界第3位です。この3カ国がダントツです。日本は世界に冠たる地熱資源大国なのです。現在までに建設されたわが国の地熱発電設備容量は約53.5万kWで、推定されている資源量のわずか2.3%が利用されているに過ぎません。なお、この資源量は、現在利用されているのと同じ方法で発電できる量のみを示したものですが、将来的発電方式と言われる、高温岩体発電や火山発電あるいはマグマ発電(図2)を含めると、資源量は飛躍的に増加します。これらは将来の技術の進展に期待したいと思います。

図2 坑井内同軸熱交換器法によるマグマからの熱エネルギー抽出。マグマ内あるいはマグマの近くまでボーリング坑を掘り、ケーシング(金属管)を入れます。外管といいます。その中に、熱をよく保持する性質を持った内管を入れます。外管と内管の間から冷水を入れ、マグマの熱によって温められた熱を内管から取り出し、発電などに利用します。将来のマグマ熱の有効な利用方法の1つです(図:盛田耕二氏提供)。
Q7
地熱発電の仕組みはどのようなものですか?
A7
火山の周辺地域には、深さ1~3km位の深さに地熱貯留層があります。この地熱貯留層は、たとえて言えば、石の詰まったヤカンの中に熱水や蒸気が溜まっているような場合もありますが、多くの場合は、断層のような薄い地下の岩石の割れ目に熱水や蒸気が溜まっていることが多いのです。言ってみれば、畳が十分水を吸ったような状態です。このような地熱貯留層を地表から探し出し、これにボーリングし、蒸気や熱水を取り出すのです。  

地熱貯留層では高温の熱水(液体)だけが存在する場合が多いのです。そして、暖められた熱水が地熱貯留層に蓄えられているので、圧力は静水圧(普通の地域の地下水の持っている圧力。深いほど圧力は大きくなります)より高くなっています。したがって、この地熱貯留層にボーリング坑を掘ると高圧の熱水はボーリング坑中を自然に上昇します。上昇すると圧力が下がるので、初めは液体であっても、ある程度上昇すると沸騰します。たとえば、山の麓では沸騰していない高温の水を山の頂上に持っていくと100℃以下でも沸騰するのと同じです。すなわち、液体であったものが、蒸気と熱水の混合物になります。上昇を続けると、熱水がさらに蒸気に変わり、蒸気の量が多くなります。

ボーリング坑の出口では蒸気と熱水の混合物が勢いよく噴出します。このような井戸を生産井と言います。多くの場合、発電に使えるのは蒸気だけですので、セパレータ(蒸気熱水分離器)によって、蒸気と熱水を分離し、蒸気はタービンに送られ発電に使われます。蒸気を使って発電するシステムは火力発電と同じです。
Q8
地熱発電と他の発電システムとの違い、優位性はどのようなものですか?
また、地熱発電の長所と短所は?
A8
地熱発電は地球の持つ熱によって作られた蒸気を利用するので、火力発電のように石油や石炭を燃やす必要がありません。したがって、地熱発電では発電に伴って、CO2を放出することがないので、地球温暖化対策としても有効な発電方法になるのです。また、太陽光発電や風力発電のように天候の影響を受けずに、24時間安定した発電が可能です、 なお、地下からは蒸気とともに熱水も取り出されますが、発電に使われなかった熱水は、還元井を通じて、地下に戻されます。還元井の役割は、不用熱水を地熱貯留層に戻して、地熱貯留層の寿命を延ばすとともに、熱水中に含まれることがある砒素などの有毒物質を環境中に放出させないためです。 ところで、蒸気を取り出すための地熱貯留層を探すのはそれ程簡単ではありません。調査の結果、有望な地熱貯留層だと思って井戸を掘っても、温度は高いのですが、熱水・蒸気がない場合がしばしば見られます。から井戸と呼ばれます。すなわち、地熱貯留層の発見には地下資源特有の探査リスクが存在しており、2kmのボーリング坑を掘るのには2億円以上がかかるので、失敗すると発電コストを押し上げる原因になります。地熱発電所が運転開始してから長い年月が経過した地域では地下の様子がよくわかっているので、外すことはあまりないのですが、新規の地域では、ボーリング坑掘削の成功率は50~60%程度と言われています。これを改善するためには、高精度探査法の技術開発が望まれます。
Q9
環境面、安全面で問題はないのですか?
A9
地熱発電所では、地下から蒸気と熱水を取り出しますが、不用熱水は地下に戻しますので、熱水による環境面および安全面の問題はありません。一方、蒸気には、毒性のある硫化水素(H2S)が含まれている場合があります。温泉や火山の近くで卵が腐ったような臭いを経験したことがあるかと思いますがあれと同じものです。蒸気中に硫化水素が含まれていると発電の効率が悪くなるということもあり、地熱発電所では、蒸気中から硫化水素を抽出し、冷却塔(タービン出口では、発電効率を高めるために蒸気を冷やす必要があるのですが、冷やした蒸気を熱水にし、この熱水をさらに冷やすために、冷却塔という機器があります。写真1)から放出されます。この冷却塔からは白い湯気が上がっていますが、抽出された硫化水素は、この湯気あるいは空気と一緒に大気中に放出・拡散されます。地熱発電所によっては、わずかながら硫化水素の臭いがするところもありますが、人体に影響があるレベル(10ppm)より十分低くわが国の地熱発電所では環境上および安全上問題となったことはありません。しかしながら、安全上問題ないレベルでも人間の鼻は非常に敏感なので気になる場合があります。そのような場合、発電所が硫化水素除去装置を取り付け、問題を改善した例がわが国で2例あります。

写真1 冷却塔から白い湯気を放出する大分県八丁原地熱発電所。左の4つの冷却塔は1号機(1977年運転開始)、右の5つの冷却塔は2号機(1990年運転開始)。いずれも発電設備は5万5000kW.
Q10
地熱発電は周辺の温泉に影響することはないのですか?
A10
地下から取り出された蒸気と熱水のうち、熱水は地下に還元するので問題はないのですが、発電に使われた蒸気の分だけは地下からなくなります。しかしながら、地下から熱水が減ると(貯留層の圧力が減るとも言います)、自然はうまくできていて、周囲から地熱貯留層へ熱水の補給が始まります。したがって、地上に取り出す分と還元熱水を含めた周囲から補給される分とが釣り合っていれば、地熱貯留層は枯れることなく、また、周辺にある温泉にも影響はありません。日本の地熱発電所では、このようにうまくバランスを取るように発電を行っているので、これまで、わが国では周辺の温泉に影響を与え、温泉の営業ができなくなったという例はありません。バランスの取れた発電というのは、温泉にも悪影響を与えませんし、地熱発電を安定して長期間維持するのにも役立っています。

しかしながら、バランスを崩すような発電を行うと、発電量も減少するし、周囲の温泉にも影響を 与えることになります。このような例は、ニュージーランドやフィリッピンで地熱開発初期に実際 に生じています。これらの例では、一ヵ所で大規模な地熱発電所を作ったことや不用熱水を地下に 還元せず、川や海に捨てたことが原因です。このように自然の摂理に反して無理な発電を行えば、 温泉にも大きな影響を与えることになります。近年の地熱発電所では、持続可能な発電を目指して おり、地熱貯留層を適切に管理し、バランスした発電を行うようになっています。
Q11
地熱発電プラントの初期コストとランニングコストは?
A11
地熱発電を火力発電と比較してみます。地熱発電では、発電のために、ボーリングによって地下から蒸気を取り出します。したがって、地熱貯留層を探したり、ボーリング坑を掘ったりするので、初期コストが高くなります。これに対し、地熱発電は火力発電とは違って燃料費がいらないので、ランニングコストは安くなります。ただし、地熱発電所では地熱貯留層全体は大きな変化がなくとも、生産井や還元井のごく周辺では(数10m以内の範囲)蒸気や熱水の通り道が詰まり、生産蒸気量や還元できる量が減ったりするので、2、3年に一本程度、井戸を掘りなおす必要があり、燃料代がいらないといっても、井戸の追加掘削費が必要です。それでも、運転を続けていくほど発電コストが安くなります。30年程度運転を続けた地熱発電所では、他の電源と遜色ない6円/kWh程度と初期の頃に比べかなり安くなっている場合があります。他の発電システムのコストとの比較は、Q&A15で改めて、詳しく述べます
Q12
地熱発電プラントの建設期間と寿命は?
A12
地熱調査が開始されて、有望な資源量が確認され、実際に発電が行われるまでにかかる時間が10年~20年程度と長いのが地熱発電の短所になっています。これは資源量の確認に時間がかかるとともに、環境影響調査等の事前審査・手続き等に長い時間がかかるからです。これを10年以内で行うことができればコストの改善にも大きくつながります。地熱貯留層探査技術の発展、事前審査の簡素化等により、改善が可能です。事実、外国の場合、わが国よりはるかに短い期間(5年程度)で発電所の立ち上げに至っている例があります。 地熱発電プラントの寿命ですが、これは地熱貯留層の温度および圧力が蒸気生産に必要な程度維持 されれば、数10年以上あるいは100年とか200年以上の維持が可能です。もちろん、生産井や還 元井は2、3年に一本程度掘りなおし、また、古くなったタービン等の設備を更新する必要はあり ますが。わが国最初の地熱発電所である岩手県松川地熱発電所の運転開始は1966年ですから、す でに46年間安定した運転を続けています。そして、まだまだ、安定した運転を続けることに問題 はありません。このようにバランスよく発電を行うことによって、地熱発電所を長期間運転するこ とが可能です。
Q13
地熱発電の設備容量は1ヶ所あたり通常どのくらいですか。
年中無休で一日中一定の発電を続けることができるのですか。そうだとすると、ベース電源として原子力発電を一部代替することが可能になりますか?
A13
現在のわが国の地熱発電所の設備容量は、事業用の通常の蒸気利用発電所(13ヵ所。なお、自家用も入れると18ヵ所。うち一ヵ所は休止中)では3300kW(八丈島地熱発電所)から6万5000kW(柳津西山地熱発電所)の範囲で、3万kW程度のものが多いようです。 地熱発電所は年中無休で24時間発電できます。したがって、現在、原子力発電と同様、ベース電源として位置づけられおり、原子力発電を一部代替することは可能です。2年に一度定期点検があり、この期間は発電が行われません。また、落雷等の事故で、運転が中止になることがありますが、これは他の発電所と同じです。定期点検あるいは落雷等による発電停止を含めた地熱発電所の年間利用率は平均70%で、原子力発電所と並び高い利用率です。平均利用率がほぼ20%の風力発電、ほぼ12%の太陽光発電に比べ、大きな利用率になっています。その結果、地熱発電は、設備容量に比べ、発電量が多いのが特徴となっています。図3にそのことをわかりやすく示しています(地熱開発研究会、2008)。

図3 2007年における地熱発電、風力発電、太陽光発電それぞれの、年間発電量(黄色)と設備容量(緑色)。地熱発電は設備容量が小さくても、実際の発電量が多いことがよくわかります。
Q14
各種法律や規制、地元住民の理解が得られた場合、どれくらい地熱開発地点があり、日本全体で総設備容量はどのくらいが見込めますか。
A14
地熱発電が可能な高温資源賦存地域は火山の周辺に広がっています。東日本(北海道から 東北地方さらに、関東および中部地方の火山の周辺)、そして、西日本(九州地方の火山 の周辺)に広く存在しています(図4)。国による地熱開発促進調査では、全国60ヵ所以 上で、ボーリング調査が行われ、さらに、発電コストまで算定された地域が31ヵ所あり ます。バイナリー発電を含めた高温地熱資源量(150℃以上の資源量)の発電換算量とし て、2347万kWという値が試算されています。また、より低温の資源量(53℃~120℃の 資源量)の発電換算量として、833万kWという値が試算されています。これらを合計す ると、3180万kWとなり、わが国の現在の全発電設備容量2億3755万kW(2004年時 点)の約14%となっています。

資源地域MAP

図4 わが国の地熱地資源賦存地域(地質調査所、1992)。地熱資源は日本列島全体に分布しているが、高温地熱資源の分布は火山の存在と密接に関係しています。なお、第四紀火山とは、今から約200万年前以降に噴火活動したことのある比較的新しい火山(活火山を含む)。     

一方、以下のような見積もりもあります(江原他、2008)。控え目に見積もって上記2347万kWの半分および還元熱水の一部、高温の温泉によるバイナリー発電(熱水で低沸点の媒体を熱し、高圧の蒸気を作り、発電を行う方式)を含めた場合、総発電設備容量は1222.8万kWとなり、2050年におけるわが国の全電力設備容量(推定値)の10.2%と評価されています。いずれにしても、地熱発電は、わが国の電源として重要な位置を占めることが可能と見做されています。なお、上記の見積もりは、すでに実用化されている通常の天然蒸気利用型地熱発電およびバイナリー発電を想定したものであり、Q&A6に示した将来型発電方式と言われる、高温岩体発電や火山発電あるいはマグマ発電を含めると、資源量は飛躍的に増加します。これらは将来の技術開発に期待したいと思います。
Q15
日本では何故地熱開発が進まないのでしょうか。コストの問題ですか?
A15
わが国には莫大な地熱資源量があります(たとえば、150℃以上の資源量であれば、電力 に換算して2347万kW)。しかし、実際の認可出力は約53.5万kW(設備出力は549.9MW) であり、存在する資源量のうち、約2.3%が開発されたに過ぎません。その主な理由とし て、3つが挙げられます。発電コスト問題、国立公園問題、温泉問題です。まず、発電コ ストの問題ですが、地熱発電のコストは資源エネルギー庁の見積もりによれば(1993- 2004年の平均値)、13-16円/kWhと見積もられていましたが、石炭火力=6.5円、原 子力=5.9円に比べれば、明らかに高く、電力自由化の中で、低コストの電源を選択する 電力会社からは好感を持って迎えられず、地熱発電が進まない大きな理由となっています。

しかし、再生可能エネルギーの中では、地熱発電は決して高い部類ではありません(太陽 光=66-73円/kWh、風力=10-23円/kWh)。地熱発電を含め、発電コストが化石燃料 発電に比べて高い再生可能エネルギーを大きく伸ばすためには、全量固定価格買取制度 (英語で、Feed in Tariffs、略してFITと呼ばれます)が適切に運用されることが是非必 要と思われます。このような中で、2012年7月1日から、政府は、エネルギー種別ごと に、買取価格を決定しました。その結果、地熱発電の場合、設備容量1.5万kW以上、1kWh あたり、27.3円(買取期間15年)、1.5万kW未満42円(買取期間15年)となりました。 これは現在における発電コストに企業の適正な利益を加えたものですが、条件の良い地熱 地域では発電所建設に向かうことのできる買い取り価格であり、地熱発電所建設の環境が 整えられたと言えるでしょう(なお、地熱資源の場合は、他の再生可能エネルギーに比べ、 地下資源という特性から、資源量評価におけるリスクが存在しますが。これについては、 平成24年度から、経済産業省による支援策が準備されています)。ただし、国立公園問題 および温泉問題は、前進もみられますが、依然として残っています。
Q16
日本では何故地熱開発が進まないのでしょうか。国立公園の問題ですか?
A16
1972年の旧通産省と旧環境庁との覚書により、国立公園内では新たに地熱発電所は建設 しないことになったこともあり、その後、国立公園特別地域内では調査も困難な状況にな っています。ちなみに、150℃以上の地熱資源量2347万kWの81.9%が国立公園特別地 域内となっているのです。ということは、今のままでは、有望な地域のほとんどが開発で きないことになってしまっています。この点が改善されないと、地熱発電の大きな貢献は 困難になってしまいます。この国立公園問題は、内閣府でも規制緩和の観点から改善が指 摘され、現在、環境省内でも改善の検討が行われつつありますので、大いに期待されると ころです。景観に十分配慮した、自然環境に適合した地熱発電所の建設は技術的に十分可 能で、世界各地で国立公園内でも地熱発電所が建設されています。 上記のような状況の中、環境省も規制緩和の検討をはじめ、当初、国立公園特別地域外か ら特別地域内への掘削いわゆる斜め掘りを認めるとの見解が出されましたが、それは無い よりはましであるが、実質的な意義は極めて限られていることから、批判が起こり、さら に以下のように方針が変更されました。すなわち、環境省は、国立公園特別地域(2種・3 種)における掘削・地熱発電所の建設を認めることにし、認めるにあたって、自然環境へ の影響を最小限にするという条件を付けました。具体的には、自然環境の保全と地熱開発 の調和が十分図られる優良事例の形成について検証を行うこととし、そのため、以下に掲 げる特段の取り組みが行われる事例を選択し、掘削や工作物の設置の可能性について、個 別に検討する としています。具体的条件として以下の5つが挙げられています。
(1)
地域協議会など、地熱開発事業者と、地方自治体、地域住民、自然保護団体、温泉事業者等などの関係者との地域における合意形成の場の構築
(2)
公平公正な地域協議会の構成や、その適切な運営等を通じた地域合意の形成
(3)
発電所の建屋の高さの低減、蒸気生産基地の集約化、配管の適切な切り回しなど、当該地域における自然環境、風致景観及び公園利用への影響を最小限にとどめるための技術や手法の投入、そのための造園や植生の専門家の活用
(4)
地熱開発の実施に際しての、地熱関連施設の設置に伴う環境への影響を緩和するための周辺の荒廃地の緑化や廃屋の撤去等の取組、温泉事業者や農業者への熱水供給など、地域への貢献
(5)
長期にわたる自然環境や温泉その他についてのモニタリングと、地域に対する情報の開示・共有

といった条件を満たす場合に限って、容認する方針となっています。しかしながら、具体的な審査基準等が明確にされているわけではなく、環境省の裁量の範囲で行われる可能性があります。したがって、審査基準等が透明化され、公正な判断がなされるか見守っていく必要があると思われます。
Q17
日本では何故地熱開発が進まないのでしょうか。温泉との関係ですか?
A17
温泉地周辺で地熱発電所が計画されると、温泉が枯れるのではないかとの理由で反対運動 が行われ、調査自体ができなくなったり、資源量が確認され、発電所建設一歩手前まで行 ったにもかかわらず、ごく少数の反対者の存在により、発電所建設が中止になった例もあ ります。

持続可能な地熱発電を目指しているわが国では、すでに40年以上の地熱発電の経験の中 で、温泉に悪影響を与え、営業が立ち行かなくなった例は1例も存在していません。また、 現在の地熱発電技術は大きく進歩し、温泉と共生して発電を継続していける高い技術を持 っています。地熱発電に伴う地熱貯留層の変化の科学的予測が可能となっており、それと 合わせ地下の状態変化を監視するモニタリング技術も進歩しています。このような地下に 関する技術の進展は、温泉湧出のメカニズムも明らかにし、また、温泉自体の持続可能な 利用にも貢献できます。したがって、地熱発電利用は、地下における熱と水の流れのシス テムの解明を通じて、温泉の持続的利用にとっても有益と考えられます。

温泉が枯渇しても、地熱発電を進めるとの考えを持つ地熱発電事業者はいません。「地球 の熱」を温泉にも地熱発電にも利用できる科学的・技術的な道が存在しているのです。近 年、温泉関係者の中には、温泉バイナリー発電を積極的に進めたいとの考えを持つ方々が 増えています。

温泉関係者の地熱発電反対の動きはマスコミには大きく報道されることもありますが、実 は、地熱発電事業者と温泉事業者とが協力して「地球の熱」の利用を進めているところの 方が多いのが現実です。今後も、温泉事業者と地熱発電事業者とが科学的合理的な考え方 に基づいて、合意を目指して協議し、「地球の熱」の共生的利用を進めていくことを期待 したいものです。
Q18
わが国と違って、海外では何故普及が進んでいるのですか?
A18
海外で地熱発電が進んでいる理由としていくつか考えられます。資源の観点から見ると、海 外では比較的資源の規模が大きく、一ヶ所の発電規模が大きいこと挙げられます。しかしこ れにも増して大きな問題として、国による政策的な支援の問題が挙げられます。近年世界各 国では、地球温暖化対策として、地熱エネルギーをそのための有望な電力源とし、明確に数 値目標を定め、各種の政策的財政的支援を行っています。それに比べ、わが国の政策的支援 は極めて限られたものとなっており、開発リスクの低減に重要な役割を果たしてきた国によ る先導的調査である「地熱開発促進調査」もほぼ廃止の状況になっています。なお、Q&A15 に記しましたように、2011年7月以降、国は地熱開発促進に舵を切り始めました。平成24 年度には経済産業省および環境省合わせて160億円を超える予算が投じられることになっ ています。また、2012年7月からは全量固定価格買い取り制度も施行されることになりま した。

また、海外諸国では、わが国のように温泉入浴の習慣が少なく、温泉との競合が少なくなっ ています。さらに、海外では、科学的な検討に基づいて十分な景観的配慮を行うことによっ て、国立公園内での開発が認められています。そして、これらの背景にある根源的問題とし て、わが国には、地熱資源を資源として認定する法律がなく(石油等の地下資源に対しては 鉱業法がありますが、地熱資源には適用されていません)、地熱に関する法律は温泉法をは じめとして、規制法に限られ、地熱資源に対する認識が十分でないことが挙げられます。ア ジア最大の地熱資源大国インドネシアでは、地熱基本法を制定し、それに基づき明確な数値 的ロードマップを作成し、大統領自ら地熱資源開発に積極的に取り組んでいます。
Q19
地熱発電が普及するためには何が必要ですか。
A19
地熱発電を阻害している問題の解決が第一に挙げられます。コスト問題に関しては、適切 な全量固定価格買取制度(FIT)が実施されることがもっとも大きいと考えられます。こ のFITはすでにQ&A15でも示しましたように、2012年7月実施されることになり、適 切な買い取り価格案が示されており、条件の良い地熱地域では地熱発電所建設の動きと なるでしょう。

上記のような中での、わが国の地熱発電の目指すところは、当面、合計100万kW規模 の新規発電所建設ではないでしょうか。そうすれば、既設の地熱発電所と合わせれば合 計出力は150万kWを超え、太陽光発電1000万kWに相当する発電が可能となるでし ょう。これが地熱発電の当面の一里塚です。これを踏み台にして、一層の展開を期待し ています。    

国立公園問題・温泉問題については内閣府の規制改革により改善が提示され、また、所轄 の環境省においても改善に向けた動きが始まっています。この動きが加速されることを期 待したいと思います。2020年という中期目標の年限まで時間の余裕はありません。    

さて、国立公園問題・温泉問題の進展のためには、当事者の努力だけでは不十分と考えら れます。このような問題に対して国民的理解が得られれば大きな進展が期待されます。そ のためには、地熱発電の良さをより多くの国民に知ってもらうことが必要です。そこで、 適切な普及活動が是非とも望まれます。地熱発電を含めた再生可能エネルギーが大きく進 展していくためには、国民にもっともっとよく知ってもらわなければなりません。したが って、普及活動をさらに促進する必要があります。地熱基本法の制定もそのような背景の 中でこそ実現されると考えられます。そして、これを読んだ皆さんにも地熱ファンになっ て頂き、周囲の方々にも広めて頂ければそれも地熱発電普及に大きな力となると思ってい ます。
Q20
地熱発電は大地震が発生したとき、壊れたりする心配はないのですか?
A20
東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では福島第一原発が大きな被害を受け、放射能漏れ などの大きな災害が生じています。一方、地熱発電所は地震のときどうだったのでしょうか。 地熱発電所も大きな地震があると、自動停止し、点検後異常がなければ再稼働する仕組みに なっています。今回の大地震発生時も、北海道、秋田県、岩手県、宮城県、福島県にある8 つの地熱発電所は地震後緊急停止しましたが、特別な異常はなく、いずれの地熱発電所もま もなく運転を再開し、地震前と同じように安定した発電を続けています。このようにわが国 最大級の地震においても、地熱発電所は設計どおり自動停止、再開後も安定した発電を続け ており、地熱発電所の地震に対する安全性が証明されました。

さいごに

最後のQ&Aでも記しましたが、2011年3月11日に発生したM9.0の東北地方太平洋沖巨大地震は、大震災をもたらすとともに、大きな原子力災害を発生させています。このような未曾有の大震災と原発事故にわれわれが光明を見出すことができるとすれば、その1つは、わが国のエネルギー政策を原子力中心から再生可能エネルギー中心に転換することであると思われます。    

平成24年8月現在、将来のエネルギー基本計画作成のため「エネルギー・環境に関する選択肢 (具体的には2030年における電源構成)に関する意見聴取会が全国各都市で実施されたり、パ ブリックコメントの募集が行われました。しかし、それらの議論の中には、3.11原発災害がすでに忘れられたかのような発言も見られます。歴史を忘れず、正しく認識する必要があります。

再生可能エネルギーへの転換はそのスピードを速める必要があります。それによって、CO2排出 量削減という地球温暖化対策、エネルギー問題、さらには地域振興にも大きく貢献できます。上述のQ&Aで示された諸課題を克服することができれば、地熱資源量に恵まれたわが国では、エネルギー政策転換の重要な一翼を地熱エネルギーが担うことは十分可能です。

引用文献
江原幸雄ほか(2008)日本地熱学会誌、30巻3号、165-179.
地質調査所(1992)日本地熱資源図.
地熱開発研究会(2008)地熱開発研究会報告書.1-50.
日本地熱開発企業協議会(2011)私信.
村岡洋文ほか(2008)日本の熱水系資源量評価2008、日本地熱学会平成20年学術講演会講演要 旨集、B01. 

(2012年8月15日)

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